復習
ジャン=マリー・マルタン
2016年10月9日にトラパーニの大聖堂内にサーラ·ラウレンティーナが落成した。これを機会に広間は「スペクス·コラリイ(珊瑚の洞窟)」と新たに命名された。この広間はサン·ロレンツォ大聖堂の、第二次世界大戦中に破壊されたオラトリオの中にある。大聖堂は、12世紀に始まった建設事業の末、1700年代半ばに最終的な形になった。サーラ·ラウレンティーナの改築を実現したアントニオ·カルディッロは、国際的な建築批評から然るべき評価を受けた建築家である。トラパーニのプロジェクトでは、現在大聖堂がそびえる場所の過去へと向けられた望遠鏡のような空間を実現した。この場所の歴史的経緯は復元できないばかりか、過去を覆い隠すのを助けている。大聖堂が隠さざるを得ないものとは、大地が形づくられる際に海と海の生き物たちの知恵が果たす役割である。そうしてできた土地の上に、ジョヴァン·ビアジオ·アミーコ[1684–1754、トラパーニ出身の建築家·神学者·聖職者]が建てたのが、ポルティコを巡らしたプロナオス[建物前面の列柱廊]と18世紀の建物の他の部分である。この関係は、ある暗示的なパラダイムに言及せずには表現できない。すなわち、大聖堂のオラトリオ内部を改変する際にカルディッロが用いた、それらの空間に彼が与えた「珊瑚の洞窟」という名が示す枠組みである。ただし、カルディッロが建設したものは、「洞窟」と「珊瑚」という2つの表現と必ず関連付けられるようなフォルムに、直接的にも字義的にも還元できるわけではない。ことによると、次のように言ったほうがよい。彼が設計した空間は逆に、そうした空間とそれらが喚起するものとを隔てる埋めることのできない距離を明らかにする─特に遠さを測る点で、喚起よりも適切な意味がまさに「スペクス·コラリイ」なのだ。洞窟と似た海中の岩間を最適環境とする珊瑚は、数え切れない個体によって形づくられた動物性の花である。珊瑚を育むコロニーは、洞窟と同じく、自然と時間の作用の産物である。これに対して、カルディッロが設計した空間は銀色に輝く1つの長方形である。銀色の長方形は短辺と長辺がそれぞれ1と√2に相当し、立面は無理数の2.4142…で測定できる。その結果、スペクス·コラリイを形づくるうえで、カルディッロは暗示に焦点を合わせ、抽象化を使わざるを得なかった。このように、彼は建築におけるオーナメントの基礎たる数学を活用して、[珊瑚やイソギンチャクなど]花虫類のコロニーの玉虫色の造形を喚起するための空間と素材を具体化した。この理由から、サーラ·ラウレンティーナの側壁は表面がざらざらした荒塗りのモルタル仕上げとされ、石灰、砂、凝灰岩を使って珊瑚を思わせるごつごつした色合いを出している。壁面のモルタルは、凝灰岩でできた貝殻の連続した仕上げの上にも広がり、床まで続いている。ただし床の場合は、表面に艶出し処理を加えた後で、仕上げと簡潔さによって上品に見える流体のような肌理が作られた。光はざらざらした化粧仕上げに縁どられた6つの開口部から射し込み、鏡面のような3つの表層に吸収されたり反射したりして、さまざまに戯れる。床は最も光沢がある。これらの表層は、太陽光線が海面を透過する際に生み出す効果を思い起こさせる。こうした暗示の伝達は、広間の脇に伸びる廊下でも追及されている。この「ギャラリー」ではアーチの連続が1本の望遠鏡を形づくる。内部に使用された緑の色調とそれらの透明さによって、もう一度、海面を喚起する。「アーチのギャラリー」の末端はニッチで閉じられる。わずか165m2の空間を改変する本作品は、この通路の中でのみ、オラトリオが過去に果たしていた機能の追憶に席を譲る。この唯一の例外が挿入された厳密な実践において、カルディッロは今回もまた、抽象という、喚起の忠実な盟友がもつ示唆力を再確認したのである。
アントニーノ・カルディッロ、アーチのギャラリー、スペクス・コラッリ、トラーパニ、2016年。写真:アントニーノ・カルディッロ